保育園で「不適切な保育」を指摘したらパワハラと言われた|園長がとるべき順番 
#保育園#園長#不適切な保育#児童福祉法#虐待防止#パワハラ#社労士#労務管理

query_builder 2026/09/06 人事労務 労務管理

あるクラスの職員のかかわり方が気になり、園長として注意した。

すると本人から「言い方がきつい、パワハラだ」と言われた。

令和7年10月1日から、保育所等の職員による虐待には通告の義務がかかるようになりました。

園にはこどもを守る義務と、職員の就業環境を守る義務が同時にかかります。

この記事では、その2つがぶつかったときに園長が踏むべき順番を整理します。

認可保育所を中心とした、民間運営の園を前提とした解説です。

社会保険労務士・行政書士小笠原事務所

ロゴ
労働時間管理や就業規則の見直しまで幅広い業務に対応し、社労士として中小企業と従業員の両者が安心して働ける環境を整えます。愛知で行政書士として許認可申請や外国人労働者の在留資格手続きもサポートしています。
社会保険労務士・行政書士 小笠原事務所
住所:

〒486-0914

愛知県春日井市若草通5-103-2

電話番号:
0568-29-7736

1. 結論:ここだけ押さえる

✅令和7年10月1日から、保育所等の職員による虐待を受けたと思われるこどもを発見した者は、都道府県知事または市町村長に通告しなければなりません(児童福祉法第33条の12第1項)。

園がまずすることは、通告と、自治体への情報提供・相談です。虐待に当たるかどうかを園内で結論づけてから動くのでは遅れます。

✅通告したことを理由とする不利益な取扱いは禁止されています(同法第33条の12第6項)。パワハラの相談についても同じ禁止があります(労働施策総合推進法第30条の2第2項)。

✅職員からの聞き取りは、どちらの制度から見ても当事者双方から、迅速かつ正確にという同じ作法になります。

✅処分を検討する段階では、その職員だけの責任と言える状況だったかという観点から、園の職場環境も見られます。

2. 令和7年10月1日に、園の義務が変わった

通告の義務は「発見した者」にかかる

児童福祉法等の一部を改正する法律(令和7年法律第29号)により、令和7年10月1日から、保育所等の職員による虐待について通告の仕組みが設けられました。

児童養護施設等について既にあった「被措置児童等虐待」の枠組み(児童福祉法第33条の10から第33条の17)を使う形です。


条文は、虐待を受けたと思われるこどもを発見した者は、速やかに都道府県知事または市町村長に通告しなければならないとしています(同法第33条の12第1項)。

こども家庭庁の資料では「通報」と呼ばれています。


これは、園がもともと負っている保護者による虐待についての通告義務(児童虐待の防止等に関する法律第6条)とは別の制度です。

今回新しく加わったのは、職員による虐待についての通告義務のほうです。

両方に当たる場合の調整規定が、児童福祉法第33条の12第3項に置かれています。


1つは、義務がかかるのは「発見した者」であって、園長や施設長に限られないことです。

クラス担任も、パートの保育補助も、発見すれば義務を負います。


もう1つは、守秘義務が通告を妨げないことです。

刑法の秘密漏示罪をはじめとする守秘義務の規定は、通告を妨げるものと解釈してはならないとされています(同条第5項)。

ただし、虚偽であるものと過失によるものは除かれます。


幼保連携型認定こども園については、認定こども園法に「入園児虐待」の定義が置かれ、通告の仕組みが設けられています(就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律第27条の2、第27条の4第1項)。

ただし児童福祉法と同一ではありません。

園の管理下における行為に限られること、後述するネグレクトに当たる類型の書き方が違うこと(同法第27条の2第1項第3号)、項番号がずれること(守秘義務=第27条の4第4項、通告を理由とする不利益取扱いの禁止=同条第5項、通告者の秘密保持=同条第6項)に注意してください。

なお不利益取扱いの禁止は、こちらでは設置者を名宛人として「してはならない」と書かれています。


幼稚園と特別支援学校幼稚部については、学校教育法第28条第2項(幼稚園)と第82条(特別支援学校の幼稚部)が、認定こども園法第4章(入園児虐待の防止等)を読み替えて準用する形で同じ仕組みが置かれています。

学校教育法の条文自体には「虐待」「通告」の語が出てきませんので、条文を探すときは準用先の認定こども園法を見てください。

根拠となる法律が施設類型で違いますので、自園がどれにあたるかを確認してください。

虐待は4つの類型で定義されている

児童福祉法第33条の10第1項は、虐待を4つの類型で定めています。

類型 内容
身体的虐待 こどもの身体に外傷が生じ、または生じるおそれのある暴行を加えること
性的虐待 こどもにわいせつな行為をすること、またはこどもをしてわいせつな行為をさせること
ネグレクト 心身の正常な発達を妨げるような著しい減食または長時間の放置、同居人や生活を共にする他の児童による身体的・性的・心理的虐待に当たる行為の放置、その他職員としての養育または業務を著しく怠ること
心理的虐待 著しい暴言または著しく拒絶的な対応その他、こどもに著しい心理的外傷を与える言動を行うこと

この条文は児童養護施設等と共通のため、保育所には当てはまりにくい表現が含まれます。

なお幼保連携型認定こども園のネグレクトに当たる類型は書き方が異なり、園児の心身に重大な危険が生じ、または生ずるおそれがある場合に、業務上必要な注意を怠り、危険を防止するための必要な措置を講じないこととされています(認定こども園法第27条の2第1項第3号)。

国のガイドラインは「不適切な保育」ではなく「虐待」を軸に整理し直した


こども家庭庁と文部科学省のガイドライン(令和7年8月改訂、令和8年4月一部改訂)は、「不適切な保育」や「こどもの人権擁護の観点から望ましくないと考えられるかかわり」という概念を用いず、「虐待」の概念を軸に整理し直しました。


理由として、日々行われる行為は、1つ1つが虐待に当たらないとしても、振り返りの中で改善されなければ、その繰り返しによって虐待になり得ること、つまり日々の行為の延長に虐待があると解すべきことが挙げられています。


ここは誤解しやすいところです。この整理は、虐待に当たらない行為なら改善しなくてよい、という意味ではありません。

ガイドライン自身が、そうではないと明記しています。


なお、自治体が独自に「不適切な保育」の名称でガイドラインを設けている例もあります。

自園の所在自治体の基準もご確認ください。

3. 保育園ではどこが衝突するか

虐待かどうかを決めるのは、園ではない

ガイドラインは、虐待と疑われる事案を園で発見した場合、園は状況を正確に把握したうえで、市町村や都道府県の相談窓口・担当部署に速やかに情報提供・相談し、今後の対応を協議する必要があるとしています。

そして、その際に基本となるのは「隠さない」「嘘をつかない」という誠実な対応だ、と書かれています。


虐待に当たるかどうかを最終的に判断するのは園ではありません。

行政としての事実確認は、所管行政庁が「必要があると認めるとき」に行います(児童福祉法第33条の14第2項)。

所管行政庁は、そのうえで指導・助言その他必要な措置を講じます(同条第3項)。


ここでいう所管行政庁は、施設や事業の種類ごとに法律で決められた監督官庁です(同法第33条の10第2項)。

認可保育所は認可を行った都道府県知事、認可外保育施設は所在地の都道府県知事、家庭的保育事業等は市町村長です。

ただし指定都市・中核市・児童相談所設置市(特別区を含む)では、都道府県知事の事務とされているものを市区が処理する場合があります(同法第59条の4第1項)。

通告先である「都道府県知事または市町村長」と、事実確認を行う所管行政庁は、必ずしも同じではありません。


ただしこれは、園が何も調べなくてよいという意味ではありません。

園はガイドラインが求めるとおり状況を把握する必要がありますし、事業主として、パワハラの相談があれば自ら事実関係を確認する義務もあります。

園がしてはならないのは、自園で「虐待だ」「虐待でない」と結論を出してから報告することです。

聞き取りは、どちらの制度から見ても同じ作法になる

パワハラ指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は、事後の対応として、相談者および行為者の双方から事実関係を確認することを求めています。

主張が食い違って確認が十分にできない場合は、第三者からも事実関係を聴取するなどの措置を講ずるとされています。


他の職員がいる保育室で問い詰めることは、この作法から外れます。

指針は、他の職員の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返すことを、パワハラに該当すると考えられる例に挙げています。

場所と人数を選んでください。

「不利益取扱いの禁止」が重ねてかかる


気になる行為を通告した職員が、その後シフトを減らされたり、担任から外されたりする。

これは少なくとも2つの法律に同時に触れます。


✅通告をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない(児童福祉法第33条の12第6項)

✅パワハラの相談をしたこと、事実確認に協力して事実を述べたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない(労働施策総合推進法第30条の2第2項。令和8年10月1日からは第31条第2項)


自治体の側にも、通告した人を特定させる情報を漏らしてはならないという義務があります(児童福祉法第33条の13)。

園の側でも、誰が上げたかを詮索しないでください。


通告を理由とする不利益取扱いの禁止は、虚偽の通告と、過失による通告には及びません(同法第33条の12第5項の括弧書きおよび第6項。

ガイドラインは「過失によるもの」を、一般人であれば虐待があったと考えることに合理性がない場合と解しています)。

とはいえ園がこれを持ち出す場面はごく限られます。

まずは保護される前提で受け止めてください。


さらに、行政機関への通告は公益通報者保護法の保護対象となる場合があります(児童福祉法は同法の対象法律に指定されています)。

同法は改正され、令和8年12月1日から、正当な理由なく通報者を特定しようとする行為の禁止と、公益通報を理由とする解雇・懲戒に対する刑事罰が加わります。

処分を考えるとき、園の職場環境も見られる


ガイドラインには、園にとって重い一文があります。

所管行政庁が、行為を行った保育士・保育教諭等や保育所等に対する指導や処分等を検討する際には、その保育士・保育教諭等のみの責めに帰すべき状況であったかどうかという観点も勘案する必要がある、という趣旨です。

職場環境そのものは、一義的には虐待の該当要否の判断には影響しないとされています。


これは行政の指導・処分についての記述ですが、園が自ら懲戒処分を検討する場面でも、職場環境は労働契約法第15条にいう「その他の事情」として、相当性の判断に影響し得ます。

ガイドラインは、施設長・園長やリーダー層に対して、職場環境も虐待等が発生する要因となり得ることを十分に理解するよう求めてもいます。

4. 実務での運用ポイント

順番を決めておく

あらかじめ次の順番を決めて、職員に周知しておいてください。


1. 気になる行為を見たら、その場で危険を止める

2. 断定せず、事実(いつ・どこで・何が)を記録する

3. 虐待を受けたと思われるこどもを発見したときは、速やかに都道府県知事または市町村長に通告する(児童福祉法第33条の12第1項)。これは発見した本人にかかる法律上の義務です。園長の指示や、園内の結論を待つ必要はありません

4. あわせて園長・主任に報告し、園からも市町村・都道府県の担当部署に情報提供・相談して、今後の対応を協議する

5. 本人からの聞き取りは、場所と人数を選び、双方から行う

6. 処分の検討は、自治体の判断と、園の体制の見直しをセットで行う

懲戒は就業規則の根拠がなければできない

虐待と判断された場合でも、園が職員を懲戒(規律違反に対する制裁)するには、あらかじめ就業規則に懲戒の種別と事由を定め、それを職員に周知しておくことが必要とされています(最高裁平成15年10月10日判決・フジ興産事件)。

労働基準法も、表彰及び制裁の定めをする場合には、その種類と程度に関する事項を就業規則に記載しなければならないとしています(労働基準法第89条第9号)。


なお、就業規則の作成・届出の義務があるのは常時10人以上の労働者を使用する事業場ですが(同条柱書)、10人未満の園でも、懲戒を行うには規程上の根拠と周知が必要である点は変わりません。


さらに、懲戒が、その懲戒の対象となった職員の行為の性質・態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、権利の濫用として無効になります(労働契約法第15条)。

自治体が虐待と判断したことと、園の懲戒処分が有効であることは、別に検討されます。

個別の処分の可否は、事実関係と証拠の評価によって結論が変わります。

争いになりそうな事案は、早い段階で弁護士にご相談ください。

5. まとめ

こどもを守ることと、職員の就業環境を守ることは、対立する話ではありません。

衝突するのは、園が順番を飛ばしたときです。

自分で虐待だと断定して問い詰めればパワハラだと言われる入口になり、逆に、そう言われることを恐れて何も見なければ通告義務に反します。


抜け道はありません。

通告し、断定せず、双方から聴き、記録する。

この順番を先に決めておくことが、こどもと職員と園長自身を、まとめて守ります。


処分の検討では、園の職場環境も見られます。

人手不足を放置したまま個人の問題として処理して終わりにすることは、行政の側からも、懲戒処分の有効性の観点からも、通用しにくくなっています。

就業規則と相談体制の点検から着手してください。



社会保険労務士小笠原事務所は、愛知県春日井市を中心に活動しております。

■対応可能エリア

 愛知県(名古屋市、一宮市、瀬戸市、春日井市、犬山市、江南市、小牧市、稲沢市、尾張旭市、岩倉市、豊明市、日進市、清須市、北名古屋市、長久手市、東郷町、豊山町、大口町、扶桑町、津島市、愛西市、弥富市、あま市、大治町、蟹江町、飛島村、半田市、常滑市、東海市、大府市、知多市、阿久比町、東浦町、南知多町、美浜町、武豊町、岡崎市、碧南市、刈谷市、豊田市、安城市、西尾市、知立市、高浜市、みよし市、幸田町、豊橋市、豊川市、蒲郡市、新城市、田原市、設楽町、東栄町、豊根村)

 岐阜県(恵那市、大垣市、各務原市、笠松町、多治見市、土岐市、中津川市、羽島市、瑞浪市)

社会保険労務士小笠原事務所
ロゴ
労働時間管理や就業規則の見直しまで幅広い業務に対応し、社労士として中小企業と従業員の両者が安心して働ける環境を整えます。愛知で行政書士として許認可申請や外国人労働者の在留資格手続きもサポートしています。
社会保険労務士・行政書士 小笠原事務所

〒486-0914

愛知県春日井市若草通5-103-2

NEW

CATEGORY

ARCHIVE

TAG