保育園への過大な保護者要求はカスハラか?令和8年10月から園長がとるべき措置#保育園#園長#カスタマーハラスメント#保護者対応#労働施策総合推進法#保育士#社労士#労務管理
お迎えのたびに担任を1時間近く引き止める保護者がいる。
連絡帳の書き方が気に入らないと、夜間に何度も電話がかかる。
園の対応をSNSに書き込むとほのめかされた。
こうしたご相談が園長先生から増えています。
これらが直ちにカスタマーハラスメントに当たるとは限りません。
ただ令和8年10月1日から、こうした言動から職員を守る体制を園として整えることが、法律上の義務になります。
園の規模による猶予はありません。
この記事では、保育園で何がカスタマーハラスメントにあたり、園として何を準備すればよいのかを整理します。
目次
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1. 結論:ここだけ押さえる
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2. 令和8年10月から、何が義務になるのか
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根拠になる条文はどこか
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何がカスタマーハラスメントにあたるのか
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保護者は「顧客等」に入るのか
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「職場」と「職員」の範囲はどこまでか
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園側の対応が発端になっている場合の扱い
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守らなかったらどうなるのか
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3. 保育園ではどこが問題になるか
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「毅然と対応する」と、保育を続ける仕組みがぶつかる
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では、園には何ができるのか
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子育て支援の求めと、どこで線を引くか
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障害のある子の保護者からの申入れを、カスハラ扱いしない
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施設類型と運営主体で、何が変わるか
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近隣住民からの苦情も対象になる
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4. 園として実際に何をするか
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⑴ 方針を決めて、職員に周知する
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⑵ 相談窓口を作る
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⑶ 起きたあとに、迅速かつ適切に対応する
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⑷ 抑止のための措置——特に悪質な事案への対処方針を、あらかじめ決めておく
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⑸ プライバシーを守り、不利益な取扱いをしない
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こども家庭庁が示している支援策も使える
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よくある誤解と実際
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6. まとめ
1. 結論:ここだけ押さえる
✅令和8年10月1日から、カスタマーハラスメントへの対応が事業主の義務になります。根拠は改正後の労働施策総合推進法第33条第1項です。
✅義務の中身は「一件ごとに対応する義務」ではなく、体制を整える義務です。方針を決め、窓口を置き、手順を作ることが求められます。
✅園児の保護者は、法律上の「顧客等」に含まれます。国の指針は、その例として「施設・サービスの利用者及びその家族」と「施設の近隣住民」を挙げています。
✅園の規模による猶予は設けられていません。職員が数人の小規模保育事業所も、同じ日から対象です。
✅ただし「毅然と対応する」ことは「退園させる」ことと同じではありません。そもそも認可保育所では、園が単独で退園を決められません。
✅園が講じる措置は5つです。なかでも「特に悪質な事案にどう対処するか」をあらかじめ決めておく点が、これまでのハラスメント対策にはなかった部分です。
2. 令和8年10月から、何が義務になるのか
根拠になる条文はどこか
もとになったのは、令和7年6月11日に公布された改正法です(令和7年法律第63号)。この改正で、労働施策総合推進法に第33条が新しく設けられました。
ここで先にお断りしておきますが、この第33条は、令和8年10月1日から効力を持つ「改正後」の条文です。
いまe-Gov法令検索で同法の第33条を参照すると、「助言、指導及び勧告並びに公表」という別の規定が表示されます(この規定は改正後に第42条へ移ります)。
条文を確認するときは、施行日を令和8年10月1日に指定して表示してください。
改正後の第33条は、5つの項で構成されています。
条項:第33条第1項
内容:カスタマーハラスメントで職員の就業環境が害されることのないよう、
①相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備
②対応の実効性を確保するために必要な抑止のための措置
③その他の雇用管理上必要な措置
を講じる義務
条項:第33条第2項
内容:相談したこと等を理由に、職員を解雇その他不利益に取り扱うことの禁止
条項:第33条第3項
内容:他の事業主から協力を求められたときに応じる努力義務
条項:第33条第4項
内容:厚生労働大臣が指針(事業主が講じる措置の具体的な内容を国が示した告示。措置義務を果たしたかは、この指針に沿っているかで判断されます)を定めること
条項:第33条第5項
内容:指針を作るときと変えるときの手続について、第31条第4項・第5項を準用すること
義務を負うのは事業主です。
法人が運営する園なら法人、個人立の園ならその個人が名宛人になります。
園長は、法人が決めた方針にもとづいて現場で運用する立場です。
園長個人の判断に委ねる形にしないでください。
もうひとつ、実務上の注意点があります。
この改正で、パワーハラスメントの措置義務の条文番号が変わります。
これまで第30条の2だった条文が、第31条に繰り下がります。
就業規則やハラスメント防止規程に「労働施策総合推進法第30条の2」と書いている園は、あわせて見直しが必要です。
条番号が変わるのも令和8年10月1日ですので、規程の改定は同日施行で行ってください。
指針は、令和8年2月26日に告示されました。
正式名称は「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)です。
この指針も、令和8年10月1日から適用されます。
何がカスタマーハラスメントにあたるのか
この3つの要素は、指針ではなく法律そのもの(改正後の労働施策総合推進法第33条第1項)が定めています。
指針が行っているのは、その具体化と例示です。
1. 顧客等の言動であること
2. 職員が従事する業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること
3. それにより職員の就業環境が害されること
大事なのは、保護者からの苦情がすべてカスタマーハラスメントになるわけではないという点です。
指針は、客観的に見て社会通念上許容される範囲で行われたものは「正当な申入れ」であり、カスタマーハラスメントには当たらないと明記しています(指針2⑴)。
「社会通念上許容される範囲を超えた」かどうかは、言動の目的、その言動が行われた経緯や状況、業種や業態、業務の内容や性質、言動の態様・頻度・継続性、職員の属性や心身の状況、相手との関係性などを総合的に考えて判断します(指針2⑸)。
言動の内容と手段や態様の両面から見て、どちらか一方だけが範囲を超える場合でも該当し得るとされています。
判断の物差しは「平均的な労働者の感じ方」です(指針2⑹)。
同じ状況で同じ言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、働くうえで見過ごせない程度の支障が生じたと感じるかどうかで判断します。
なお指針は、強い苦痛を与える態様の言動であれば、1回の言動でも該当する場合があるとしています。
継続していなければ対象外、ということではありません。
保護者は「顧客等」に入るのか
入ります。
「顧客等」の範囲を定めているのも法律です。
改正後の第33条第1項は「顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者」としています。
指針は、これを次のように具体化しています(指針2⑷)。
✅顧客(今後サービスを利用する可能性がある人も含む)
✅取引の相手方(今後取引する可能性のある人も含む)
✅ 施設の利用者(駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設等を利用する人)
✅その他、事業主の行う事業に関係を有する者
そのうえで、含まれる人の例として「施設・サービスの利用者及びその家族」と「施設の近隣住民」を挙げています。
つまり園児の保護者だけでなく、送迎に来る祖父母も、園庭の声について苦情を寄せる近隣住民も、法律上の「顧客等」にあたります。園庭開放や一時預かりの利用者も同じです。
「職場」と「職員」の範囲はどこまでか
「職場」とは、職員が業務を遂行する場所を指します(指針2⑵)。
園舎の中だけではありません。
園外保育の公園、送迎の車内、家庭訪問先の保護者宅も「職場」に含まれます。
また指針は、対面で行われるものだけでなく、電話やSNS等のインターネット上で行われるものも含まれるとしています。
「職員」の範囲も広く取られています(指針2⑶)。
正規職員だけでなく、パート保育士、契約職員、調理員、用務員など、園が雇用するすべての職員が対象です。
派遣職員についても、派遣先である園が措置を講じる必要があります(労働者派遣法第47条の4)。
園側の対応が発端になっている場合の扱い
指針には、実務上見落とせない留意事項があります。
社会通念上許容される範囲を超えるかどうかの判断にあたっては、事業主または労働者の側の不適切な対応が、その言動の原因や背景となっている場合もあることに留意する必要があると書かれています(指針2⑸)。
けがの説明が足りなかった、連絡ミスがあった、伝達漏れが続いた。
そうした園側の落ち度が発端になっている場合、保護者の抗議をただちにカスタマーハラスメントと扱うことはできません。
まず事実関係を確認する、という順番が要ります。
守らなかったらどうなるのか
措置義務に違反しても、直接の罰則はありません。
ただし、次の仕組みがあります。
✅厚生労働大臣による助言、指導、勧告の対象になります。勧告に従わなかったときは、事業主名を公表されることがあります(改正後の労働施策総合推進法第42条第2項)。
✅カスタマーハラスメントをめぐる職員と園との紛争は、都道府県労働局長による紛争解決の援助や、調停の対象になります(同法第35条から第37条まで)。
✅職員が援助を求めたことや調停を申請したことを理由に、解雇その他不利益な取扱いをすることも禁じられています(同法第36条第2項、第37条第2項)。
加えて、対応を怠った結果、職員が心身の不調をきたした場合には、労働契約法第5条の安全配慮義務(従業員が安全に働けるよう、会社が配慮する義務)の問題として、民事上の損害賠償責任を問われる余地もあります。
「罰則がないから後回し」と考えないでください。
3. 保育園ではどこが問題になるか
ここからが、保育園に固有の難しさです。
「毅然と対応する」と、保育を続ける仕組みがぶつかる
指針が求める措置の中には、特に悪質な事案への対処の例として、次のようなものが挙げられています。
✅犯罪に該当し得る言動について警察へ通報する
✅行為者に対して警告文を出す - 法令の制限内において、商品の販売やサービスの提供をしない
✅行為者に対して、店舗や施設への出入りを禁止する
✅民事保全法(平成元年法律第91号)に基づく仮処分命令を申し立てる
一般の店舗であれば「出入り禁止」も選択肢になります。
しかし保育園では、そう単純にいきません。
理由は2つあります。
理由1:認可保育所では、園が単独で退園を決められません。
私立であっても、認定こども園に移行していない認可保育所については、保育の実施主体は市町村です。
児童福祉法第24条第1項は、保育を必要とする児童について、市町村が保育所において保育しなければならないと定めています。
園が「この保護者は困るので来週から来ないでほしい」と決められる仕組みにはなっていません。
ここで施設類型の確認が要ります。
同項の「保育所」からは、認定こども園の認定を受けた園が除かれています。
つまり同じ認可保育所でも、保育所型認定こども園に移行した園は第24条第1項の対象から外れ、次に述べる直接契約の類型として動きます。
自園がどちらなのかを、まず確かめてください。
なお、誰がどの園を利用するかの調整も市町村が行いますが、これは常にではありません。
児童福祉法第24条第3項は、保育所等が不足し、または不足するおそれがある場合その他必要と認められる場合に利用調整を行うと定めています。
実際に利用調整を行っているかは市町村によって異なりますので、自園の所在市町村の運用をご確認ください。
理由2:利用の申込みを、正当な理由なく拒むことは認められていません。
認定こども園や小規模保育事業など、保護者と直接契約する類型では、利用の申込みを正当な理由なく拒んではならないとされています。
根拠は子ども・子育て支援法第33条第1項(特定教育・保育施設の設置者の責務)と同法第45条第1項(特定地域型保育事業者の責務)です。
これを受けて、「特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業並びに特定子ども・子育て支援施設等の運営に関する基準」(平成26年内閣府令第39号)第6条第1項・第39条第1項が、運営基準として同じ内容を定めています。
私立の認可保育所も、市町村の確認を受けた特定教育・保育施設ですので、この規定の対象そのものには入ります。
ただし利用の申込みは市町村に対して行われるため、実務上は理由1の枠組みで動きます。
※条番号について:この「第33条」は子ども・子育て支援法の条番号です。カスタマーハラスメントの根拠である労働施策総合推進法第33条とは、別の法律の別の条文です。番号が同じなので、混同しないようご注意ください。
ただし、この応諾義務は「利用の申込みを拒めない」という入口の規定です。
すでに在園している子どもの利用をやめさせられるかどうかは、これとは別の問題です。
応諾義務の対象外である企業主導型保育事業や認可外保育施設についても、「規定がないから一方的に打ち切ってよい」ということにはなりません。
契約の内容と、何より子どもの福祉の観点から、慎重な検討が必要です。
利用の継続をどうするかは、必ず市町村(企業主導型保育事業なら助成の実施機関)に相談したうえで判断してください。
そして指針自身が、この点に配慮するよう求めています。
措置を講じる際には「各業法等によりサービス提供の義務等が定められている場合やサービスが途絶すると顧客等の生命や心身の健康に重大な影響が及ぶ場合等があることに留意して適切に対応する必要がある」と明記されているのです(指針4柱書)。
特に悪質な事案への対処方針を決めるときにも、「各業法等による定めがある場合等、業種・業態等により必要な対応が異なる場合がある」ことに留意するよう述べています(指針4⑷)。
保育の場合、サービスが途絶えて不利益を受けるのは、保護者ではなく子どもです。
ここが一般のカスタマーハラスメント対応と決定的に違う点です。
では、園には何ができるのか
出入り禁止や利用の打ち切りという選択肢が取りにくいぶん、**それ以外の手を厚くしておく**ことになります。
指針が挙げる措置の例のうち、保育園で現実的に使えるのは次のようなものです。
✅職員から園長等にすぐ報告させ、その場の対応方針の指示を仰ぐ
✅可能な限り職員を一人で対応させない。必要に応じて園長や主任が代わって対応する
✅対応する担当者を替える、または複数人で対応する
✅十分な説明をしたうえでなお要求が繰り返される場合に、一定の時間の経過をもって面談を終える、電話を切る
✅暴行、傷害、脅迫など犯罪に該当し得る言動については警察へ通報する
✅やり取りを録音・録画する(個人情報保護法を守り、保護者の個人情報を適切に取り扱うことが前提です)
✅被害を受けた職員のメンタルヘルス不調について、相談対応の措置を取る
✅法的な手続が必要な場合に、弁護士へ相談する
このうち「一人で対応させない」は、保育の現場ではとりわけ重要です。
お迎えの時間帯は担任が一人で保護者と向き合う場面が多く、そこで長時間の抗議を受ける構図が生まれやすいためです。
子育て支援の求めと、どこで線を引くか
保育所は、保護者との相互理解を図るよう努めることとされています。
保育所保育指針(平成29年厚生労働省告示第117号)第4章2(1)ア「保護者との相互理解」は、日常の保育に関連したさまざまな機会を活用し、子どもの日々の様子の伝達や収集、保育所保育の意図の説明などを通じて、保護者との相互理解を図るよう努めることとしています。
つまり保育園にとって保護者は、支援に努める相手であると同時に、法律上の「顧客等」でもあるという二重の立場に立ちます。
この二重性が、保育現場でカスタマーハラスメント対応を難しくしています。
だからこそ、園として「どこまでが子育て支援で、どこからがカスタマーハラスメントか」の線引きをあらかじめ決め、職員に共有しておく必要があります。
線引きが無いと、現場の職員は「これは支援の一環として受け止めるべきなのか」と迷い、一人で抱え込むことになります。
障害のある子の保護者からの申入れを、カスハラ扱いしない
指針は、この点をはっきり書いています。
障害のある方から、障害を理由とする不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を必要としている旨の意思を表明すること自体は、カスタマーハラスメントには当たりません。
根拠は障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律。平成25年法律第65号)第8条第2項です。
事業者は、障害のある方から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合に、その実施に伴う負担が過重でないときは、必要かつ合理的な配慮をしなければならないとされています。
私立園を含む事業者のこの合理的配慮は、令和6年4月1日から努力義務ではなく法的義務になりました。
配慮を求める申入れと、社会通念上許容される範囲を超えた要求とは別物です。
園の方針を作るときは、この区別を必ず書き込んでおいてください。
指針は、顧客等との建設的対話を重ねるなど、事案に応じて適切に対応する必要があるとしています。
施設類型と運営主体で、何が変わるか
ここは混同しやすいところなので、整理しておきます。
論点:カスタマーハラスメントの措置義務
適用のされ方:施設類型・運営主体を問わず、職員を雇用していれば対象。認可保育所、認定こども園、幼稚園、小規模保育、企業主導型保育のいずれでも、社会福祉法人・学校法人・株式会社のいずれが運営していても変わりません
論点:保育の実施責任
適用のされ方:認定こども園に移行していない認可保育所については市町村が負います(児童福祉法第24条第1項)。利用の調整も、保育所等が不足するおそれがある場合など必要と認められる場合には市町村が行います(同条第3項)
論点:利用申込みを正当な理由なく拒めない義務
適用のされ方:特定教育・保育施設(子ども・子育て支援法第33条第1項)と特定地域型保育事業者(同法第45条第1項)に課されます。企業主導型保育事業・認可外保育施設はこれらの規定の対象ではありません
自園がどの制度にもとづく施設なのかによって、適用される規定が変わります。まずそこを確認してください。
なお、公立園(自治体が設置し運営する園)についても、カスタマーハラスメント対策そのものが不要になるわけではありません。
異なるのは、職員の身分(地方公務員)と、行政による履行確保や紛争解決の手続です。
本記事は私立の園を前提に整理していますので、公立園の取扱いは所管部局にご確認ください。
近隣住民からの苦情も対象になる
見落とされがちですが、指針は「顧客等」の例に施設の近隣住民を挙げています。
園庭で遊ぶ声がうるさい、送迎の車が路上に停まっている、行事の音が大きい。
こうした申入れ自体は、正当な苦情であればカスタマーハラスメントには当たりません。
しかし、それが連日にわたる怒鳴り込みや、職員個人への中傷にまで及べば、社会通念上許容される範囲を超えた言動として扱われ得ます。
保護者対応だけを想定して方針を作ると、この場面が抜け落ちます。
方針には近隣住民への対応も含めることが必要です。
4. 園として実際に何をするか
指針が定める措置は、5つのまとまりに整理できます。すべて「講じなければならない」措置です。
⑴ 方針を決めて、職員に周知する
✅カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、職員を保護するという園の方針を明確にし、管理監督者(園長・主任など)を含む職員に周知・啓発する
✅カスタマーハラスメントの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を職員に周知する
対処の内容は、その場で職員から園長等に報告があった場合や、園長等が現認した場合に、直ちに適切な対応ができるように定めます(指針4⑴ロ)。
園だよりや掲示で保護者にも園の方針を伝えることは、必ず講じなければならない措置とはされていませんが、指針は被害の防止にあたって効果的と考えられるとしています(指針4⑴イ)。
あわせて、改正後の同法第34条第5項は、顧客等自身に対しても、職員の就業環境を害することのないよう必要な注意を払う努力義務を定めています。
保護者や近隣住民への周知は、この規定をふまえた取組として位置づけられます。
⑵ 相談窓口を作る
✅相談窓口をあらかじめ定め、職員に周知する
✅窓口の担当者が、内容や状況に応じて適切に対応できるようにする
職員数人の園でも、窓口の設置は免除されません。
ただし指針は、負担を軽くする方法を2つ示しています(指針4⑵イ)。
ひとつは、他のハラスメント(パワハラ・セクハラなど)の相談窓口と一体的に設置すること。
もうひとつは、外部の機関に相談への対応を委託することです。
担当者として、職員の上司にあたる管理監督者等を定めることも考えられるとされています。
窓口の運用で重要な点があります。
指針は、カスタマーハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、該当するか微妙な場合であっても、広く相談に対応するよう求めています(指針4⑵ロ)。
「これはカスハラではないから相談を受けない」という運用は、指針に沿いません。
⑶ 起きたあとに、迅速かつ適切に対応する
✅事実関係を迅速かつ正確に確認する
✅カスタマーハラスメントが生じた事実が確認できた場合は、速やかに被害を受けた職員への配慮の措置を行う
✅再発防止に向けた措置を講じる
見落としやすい点をひとつ。
指針は、カスタマーハラスメントが生じた事実が確認できなかった場合においても、同様の措置を講じるよう求めています(指針4⑶ハ)。
「事実が確認できなかったので何もしない」では足りません。
⑷ 抑止のための措置——特に悪質な事案への対処方針を、あらかじめ決めておく
ここが、パワハラやセクハラの措置義務にはなかった項目です。
法律の条文(第33条第1項)が「その抑止のための措置」と名指ししている柱でもあります。
園は、過度な要求を繰り返すなど特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定め、管理監督者を含む職員に周知し、その対処を行うことができる体制を整備しなければなりません(指針4⑷)。
「起きてから考える」ことは認められていません。
前述のとおり、保育園では出入り禁止や利用の打ち切りを園の判断だけで選ぶことができません。
だからこそ、どの段階で誰が判断し、どこに相談するのかを、事前に紙に落としておく必要があります。
市町村の保育主管課への相談ルートも、方針に入れておくと現場が動きやすくなります。
⑸ プライバシーを守り、不利益な取扱いをしない
✅相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を職員に周知する
✅相談等を理由として、解雇その他の不利益な取扱いをされない旨を定め、職員に周知・啓発する
指針は、⑸の後半について「就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において規定し、職員に周知・啓発する」ことを、措置を講じていると認められる例として挙げています(指針4⑸ロ)。
就業規則やハラスメント防止規程の改定が必要になる園が多いはずです。
10月1日まで、時間はあまり残っていません。
こども家庭庁が示している支援策も使える
こども家庭庁は令和8年3月25日付けの事務連絡「保育現場におけるハラスメント対策について」で、保育現場向けの対応を示しています(地方自治法第245条の4第1項にもとづく技術的助言)。
ここでは次のような支援が挙げられています。
✅保育士や保育事業者等への巡回支援事業
保護者等への対外的な対応を援助する者による巡回支援の費用の一部が補助されます。事務連絡は都道府県と市町村に対し、実施を積極的に検討するよう求めています
✅保育士・保育所支援センター
令和8年度から、人事・労務管理等に関する専門性の高い資格を有する人材の配置に要する費用の一部を補助することとされています。
こちらは都道府県・指定都市・中核市が実施主体です
✅「保育所等における在園児の保護者への子育て支援」(令和5年3月厚生労働省)の44頁に「理不尽な要求等を繰り返す保護者への対応に関する留意点」が示されており、参考にするよう案内されています
あわせて同事務連絡は、令和8年度以降に、①保育現場における労働者の就業環境保護に係るガイドライン、②管理者・職員向けの研修資材、③周知・啓発用配布資材を作成し周知する予定であることと、制度的な対応の在り方についても検討する予定であることを示しています。
実施状況は自治体によって異なります。まず市町村の保育主管課に、必要に応じて都道府県の保育主管課にも確認してください。
よくある誤解と実際
誤解:保護者は「顧客」ではないから、カスハラの対象外だ
実際:指針は「顧客等」の例に「施設・サービスの利用者及びその家族」を挙げています。保護者も祖父母も対象です
誤解:小さい園には猶予期間がある
実際:園の規模による猶予は設けられていません。令和8年10月1日から一律に対象です
誤解:個々の場面できちんと対応していれば、義務は果たしている
実際:求められているのは雇用管理上の措置です。方針・窓口・手順という体制を整えなければ、義務を果たしたことになりません
誤解:苦情を言われたら、すべてカスハラとして扱う
実際:社会通念上許容される範囲で行われた申入れは「正当な申入れ」であり、該当しません
誤解:毅然と対応する=迷惑な保護者には退園してもらう
実際:認定こども園に移行していない認可保育所では、保育の実施主体は市町村です(児童福祉法第24条第1項)。園が単独で退園を決めることはできません
誤解:うちは認可保育所だから、市町村がすべて決めてくれる
実際:同じ認可保育所でも、保育所型認定こども園に移行した園は児童福祉法第24条第1項の対象から外れ、直接契約の類型になります。自園がどちらかの確認が先です
誤解:応諾義務の対象外の施設なら、園の判断で利用を打ち切れる
実際:応諾義務は「利用の申込みを拒めない」という入口の規定です。在園児の利用継続は別の問題で、子どもの福祉の観点から慎重な検討が必要です
誤解:障害のある子の保護者からの強い申入れもカスハラだ
実際:障害を理由とする差別をしないよう求めることや、社会的障壁の除去を求める意思表明自体は、カスハラに当たりません
誤解:継続していなければカスハラにならない
実際: 強い苦痛を与える態様であれば、1回の言動でも該当する場合があります
誤解:園庭の声への近隣住民の苦情は関係ない
実際:指針は「顧客等」の例に「施設の近隣住民」を挙げています
誤解:事実が確認できなかったら、何もしなくてよい
実際:確認できなかった場合においても、同様の措置を講じる必要があります
誤解:相談窓口は大きな法人だけの話だ
実際:規模を問わず必要です。他のハラスメント窓口との一体設置や、外部委託が認められています
誤解:罰則がないから、急がなくてよい
実際:勧告に従わないと事業主名を公表されることがあります(改正後の同法第42条第2項)
誤解:就業規則を変える必要はない
実際:相談等を理由に不利益な取扱いをしない旨を、就業規則等に定めて周知する例が指針に挙げられています
6. まとめ
保育園にとって、保護者は支援に努める相手であり、同時に法律上の「顧客等」でもあります。
この二重性があるために、「毅然と対応する」という言葉だけでは現場が動けません。
しかも保育園は、他の業種と違って「もう来ないでください」と言える立場にありません。
認定こども園に移行していない認可保育所では、利用をどうするかを決めるのは市町村です。
直接契約の類型でも、利用の申込みを正当な理由なく拒むことはできません。
だからこそ、その手前の段階の備えを厚くしておく必要があります。
令和8年10月1日から求められるのは、園長個人の対応力ではなく、園としての仕組みです。
方針を決め、窓口を置き、悪質な事案の対処手順をあらかじめ紙にしておく。
この3つを用意しておけば、現場の職員が一人で抱え込む場面はかなり減ります。
残された時間は多くありません。
まず、園の方針を1枚の文書にするところから始めていきましょう。
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診療所で院長の家族を雇うとき|同居の親族は労働者か、保険はどうなるか #クリニック経営 #開業医 #診療所 #家族従業員 #社会保険 #労災保険 #社労士 #労務管理
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