歯科医院のパート衛生士は社会保険に入るのか?判定の順番と令和8年10月の新制度 
#歯科医院#開業歯科医#歯科衛生士#社会保険#適用拡大#年金制度改正#社労士#労務管理

「パートだから社会保険は関係ない」。

歯科医院の院長から、いまでもよく聞く言葉です。

しかし社会保険に入るかどうかは、雇用形態の名前では決まりません。

判定を誤ると、あとから数年分の保険料をさかのぼって求められることがあります。

この記事では、自院のパート歯科衛生士が対象かを確かめる順番と、令和8年10月1日から始まる新しい支援制度を整理します。

社会保険労務士・行政書士小笠原事務所

ロゴ
労働時間管理や就業規則の見直しまで幅広い業務に対応し、社労士として中小企業と従業員の両者が安心して働ける環境を整えます。愛知で行政書士として許認可申請や外国人労働者の在留資格手続きもサポートしています。
社会保険労務士・行政書士 小笠原事務所
住所:

〒486-0914

愛知県春日井市若草通5-103-2

電話番号:
0568-29-7736

1. 結論:ここだけ押さえる

✅社会保険に入るかは、①自院が適用事業所か ②4分の3基準を満たすか ③4要件を満たすかの順で決まります。「パート」という呼び名は判定に関係ありません。あわせて、2か月以内の契約かどうかを全員について確認します。

✅自院が適用事業所であれば、常勤職員の4分の3以上働いているパートは、50人超かどうかに関係なく、いま現在すでに被保険者です。ここを取りこぼしている医院が最も多く見られます。

✅見るのは契約書だけではありません。契約上は基準未満でも、実際の労働時間と労働日数が直近2か月とも4分の3以上で、今後も続く見込みなら、加入対象になります(令和4年3月18日保保発0318第2号)。

✅週20時間以上4分の3未満のパートは、原則として対象外です。ただし労使の合意で「任意特定適用事業所」になれば加入できます(平成24年法律第62号 附則第17条第5項・第46条第5項)。

令和8年10月1日から「保険料調整制度」が始まります。従業員50人以下の事業所が対象で、パート本人の保険料負担を最大で半分に軽減できます。事業主が立て替えた分は、あとで納める保険料から全額控除されます。

✅注意点があります。令和8年9月30日以前に任意特定適用事業所になった事業所は、この制度の対象外です。急いで手続きすると、かえって損をします。

2. 社会保険に入るかは、3つの順番で決まる

判定は必ずこの順番で行います。飛ばすと結論を間違えます。


順番①:自院はそもそも適用事業所か

適用事業所(社会保険に入らなければならない事業所のこと)に当たるかを、まず確認します。

根拠は健康保険法第3条第3項と厚生年金保険法第6条第1項です。

両方の条文は、ほぼ同じ内容を定めています。


自院の形態:医療法人

適用事業所になるか:なる(従業員がいなくても、業種を問わない)


自院の形態:個人開業で、常時5人以上の従業員

適用事業所になるか:なる(医療業は法律が定める17種類の事業に入る)


自院の形態:個人開業で、従業員5人未満

適用事業所になるか:ならない(任意適用事業所になることは可能)


法人の事業所は「常時従業員を使用するもの」であればすべて適用事業所です(健康保険法第3条第3項第2号)。

業種も人数も問われません。

日本年金機構も、法人の事業所には「事業主のみの場合を含む」と説明しています。

歯科医師1人・従業員ゼロの医療法人でも、その歯科医師が法人から報酬を受けていれば適用事業所となり、本人が被保険者になります。


個人開業の場合は、法律が挙げる17種類の事業に当たり、かつ常時5人以上の従業員を使用していることが必要です。

歯科医院は「疾病の治療、助産その他医療の事業」に当たります(健康保険法第3条第3項第1号カ)。

厚生労働省も、法定17業種の一覧に「医療」を掲げています。


この「5人」を、正職員だけで数えないでください。

パートであっても、次の順番②で説明する4分の3基準を満たす人は被保険者になります。

常勤2人とパート3人という構成でも、5人に達している可能性があります。

反対に、4分の3基準を満たさない短時間のパートや、2か月以内の契約で更新の見込みがない人は、原則としてこの「5人」には数えません。

過大に数えても過小に数えても判定を誤りますので、自院が該当するかどうかは年金事務所に確認してください。


個人開業の院長本人は被保険者になりません(健康保険については市町村国保か歯科医師国保に加入することになります)。

健康保険法第3条第1項と厚生年金保険法第9条が、被保険者を「適用事業所に使用される」と定めているためです。

院長は使用する側です。

5人を数えるときも院長本人は含めないのが実務上の取扱いですが、個々の事業所の判定は年金事務所の確認によります。


一方、医療法人の理事長は、労務の対償として法人から報酬を受けていれば、法人に使用される者として被保険者になります(昭和24年7月28日保発第74号)。

無報酬の場合や、経常的に労務を提供している実態がない非常勤の場合は、この限りではありません。


従業員5人未満の個人開業でも、社会保険に入る道はあります。

任意適用事業所(申請して適用事業所になった事業所のこと)です。

被保険者となるべき人の2分の1以上の同意を得て、厚生労働大臣の認可を受けます(健康保険法第31条、厚生年金保険法第6条第3項・第4項)。

ただし、いったん任意適用事業所になると、やめるには被保険者の4分の3以上の同意と認可が必要です(健康保険法第33条、厚生年金保険法第8条)。

入るときより、やめるときのほうが要件は重くなります。

全員に共通する確認:2か月以内の契約か

順番②に進む前に、契約期間を確認します。

2か月以内の契約で、その期間を超えて使うことが見込まれない人は、被保険者になりません(健康保険法第3条第1項第2号ロ、厚生年金保険法第12条第1号ロ)。

これは4分の3基準を満たす人にも、満たさない人にも共通する取扱いです。


ただし、次のどちらかに当たるときは、2か月以内の契約であることを理由に外れることはなくなり、契約の当初から順番②・③の判定に進みます(判定の結果、要件を満たせば最初の日から被保険者になります)。


✅就業規則や雇用契約書に「更新する」または「更新する場合がある」と書いてあること

✅同じ事業所で、同じような契約の人が実際に更新された実績があること


このどちらかに当たっても、最初の契約期間を超えて使わないことを労使双方が書面で合意しているときは、被保険者になりません(メールによる合意を含みます。日本年金機構の適用拡大Q&A集 問3)。

順番②:4分の3基準を満たしていないか

自院が適用事業所なら、次にパート一人ひとりを見ます。

実務で最も取りこぼされる部分です。


  4分の3基準とは、1週間の所定労働時間1か月の所定労働日数両方が、同じ事業所の通常の労働者の4分の3以上かどうかを見る基準です。

判定は原則として所定労働時間・所定労働日数(雇用契約書や就業規則で定めた、働くことになっている時間と日数)で行います。


ただし、ここに大きな例外があります。

契約上は4分の3基準を満たさなくても、実際の労働時間または労働日数が直近2か月において基準を満たし、今後も同じ状態が続く見込みであるときは、基準を満たすものとして取り扱われます(令和4年3月18日保保発0318第2号)。

契約書を直せば済む話ではありません。

契約と実態がずれている人がいる場合は、すでに加入義務が生じている可能性があります。


なお、時間と日数のどちらか一方が実態で4分の3以上になっただけでは足りません。

被保険者になるのは、時間・日数の両方が4分の3以上のときです。

週20時間の要件についても同じ実態判定の取扱いがありますが、そちらは次の順番③で使うものです。

特定適用事業所でも任意特定適用事業所でもない医院では、週20時間の実態があっても、それだけでは加入対象になりません。


この基準を満たす人は、自院が適用事業所である限り、50人超かどうかに関係なく被保険者になります

根拠は健康保険法第3条第1項第9号と厚生年金保険法第12条第5号です。

条文は、4分の3未満の人のうち一定の要件に当たる人を被保険者から外す、という形で書かれています。

裏を返せば、4分の3以上の人はこの規定では外れません。


ただし、これとは別の適用除外もあります。

厚生年金保険は70歳未満の人が対象です(厚生年金保険法第9条)。

健康保険は75歳になると後期高齢者医療に移ります(健康保険法第3条第1項第7号。65歳以上で一定の障害の認定を受けた人も同様です)。

70歳を超えて働く受付や歯科助手がいる医院では、ここも確認してください。


比べる相手は、原則として「同一の事業所に使用される通常の労働者(常勤職員)」です。

ただし、同じ種類の仕事をしている常勤職員がいる場合は、その人と比べます(健康保険法第3条第1項第9号のカッコ書き)。

常勤の歯科衛生士がいれば、パートの歯科衛生士はその人と比べます。

常勤の歯科衛生士がいない医院でも、比べる相手がなくなるわけではありません。

その場合は院内の他の常勤職員と比べて判定しますので、自己判断せず年金事務所に確認してください。


常勤の歯科衛生士が週5日・週40時間(1か月の所定労働日数20日)だとします。

その4分の3は、1か月15日・週30時間です。


✅週4日・1日7時間(1か月16日・週28時間)→ 日数は4分の3以上ですが、時間が30時間に届きません。基準を満たしません。

✅週4日・1日8時間(1か月16日・週32時間)→ 日数も時間も4分の3以上です。被保険者になります


後者を「パートだから」と加入させていない医院は、少なくありません。

この場合、医院の従業員が3人でも5人でも、自院が適用事業所である限り加入させる義務があります(個人開業で常時5人未満なら、順番①の段階で適用事業所に当たりません)。


しかし、この例をそのまま自院に当てはめないでください。

歯科医院は、常時10人未満であれば週44時間まで所定労働時間を定めることができます(労働基準法第40条、労働基準法施行規則第25条の2第1項。特例措置対象事業場といいます)。

常勤の所定が週44時間の医院なら、4分の3は週33時間です。

上の例の週32時間は、この場合は基準を満たしません。

必ず自院の常勤職員の実際の所定労働時間を分母にしてください。


もう1つ、条文上の細かい点に触れておきます。

条文は「短時間労働者」を、1週間の所定労働時間が通常の労働者より短い人と定めています(健康保険法第3条第1項第9号・厚生年金保険法第12条第5号のカッコ書き)。

したがって、週の所定労働時間が常勤職員と同じかそれ以上で、1か月の所定労働日数だけが4分の3未満という人は、そもそも短時間労働者に当たりません。

ただし、これが成り立つのは1日11時間を超えるような所定を組んだ場合に限られ、実際にはまれです。

週の所定労働時間が常勤より少しでも短ければ、短時間労働者に当たります。

混同しないようご注意ください。

順番③:4要件を全部満たすか


4分の3基準を満たさない人でも、次の4つをすべて満たせば被保険者になります。

1つでも欠ければ対象外です。

日本年金機構も、4要件すべてを満たした場合に資格を取得すると説明しています。


要件①:労働時間

内容:1週間の所定労働時間が20時間以上


要件②:賃金

内容:所定内賃金が月額8.8万円以上


要件③:学生でない

内容:学生は対象外。ただし、卒業見込証明書を持ち卒業前から就職して卒業後も引き続き勤務する人、休学中の人、大学の夜間学部・高校の定時制課程の人などは「学生」に含まれず、加入対象になります


要件④:事業所

内容:特定適用事業所、または任意特定適用事業所であること


※②の賃金要件は、令和8年10月に撤廃される予定です(第4章を参照してください)。


歯科医院にとっての壁は④です。

特定適用事業所とは、事業主が同じ適用事業所に使用される特定労働者の総数が、常時50人を超えるものをいいます(平成24年法律第62号 附則第17条第12項・第46条第12項)。

数えるのは厚生年金保険の被保険者、つまり常勤者と4分の3基準を満たす人です。

4分の3未満の短時間労働者として加入している人は、数に入りません。


歯科医院でこの50人を超えることは、まずありません。

自然に④を満たすことは期待できず、次の任意特定適用事業所を選ぶかどうかが判断の分かれ目になります。

3. 歯科医院ではどこが問題になるか


歯科医師国保に入っている医院は、手順が1つ増えます

自院が歯科医師国民健康保険組合(同じ業種の人で作る国民健康保険の組合)に加入している場合、加入手続きを進める前に確認すべきことがあります。


新たに被保険者になる人の健康保険については、協会けんぽに入るほかに、健康保険被保険者適用除外承認を受けて歯科医師国保を続けるという道があります(健康保険法第3条第1項第8号)。

ただし、この承認を受けても、**厚生年金保険は適用除外になりません。

厚生年金保険法第12条に、これに当たる規定がないためです。


そして期限が短い点に注意してください。

承認の申請は、事実が発生した日から14日以内に行う必要があります。

法人化した日や、新しくパートを採用した日から2週間です。

期限を過ぎると、原則として協会けんぽに加入することになります。


この承認は、その人が歯科医師国保組合の被保険者であることが前提です。

期限を過ぎて協会けんぽに加入したあとで、歯科医師国保に戻すことはできません。

手続きの進め方は、加入先の歯科医師国保組合と年金事務所の双方に、事前に確認してください。

企業規模はどの単位で数えるのか

50人を超えるかどうかの判定単位は、医院の形態で変わります。

日本年金機構は次のように整理しています。


医療法人:同じ法人番号を持つすべての適用事業所の被保険者を合計して数える

✅個人開業:適用事業所ごとに数える


分院を複数持つ医療法人は、法人全体で合計します。

個人開業で2院を経営している場合は、院ごとに数えます。

なお「常時50人を超える」とは、12か月のうち6か月以上、50人を超えることが見込まれる状態をいいます。

任意特定適用事業所を選ぶと、何が起きるのか

50人を超えない医院でも、労使が合意すれば、パートを社会保険に加入させられます。

これが任意特定適用事業所です(平成24年法律第62号 附則第17条第5項・第46条第5項)。


同意を求める相手(同意対象者)は、厚生年金保険の被保険者、70歳以上被用者、そして3要件(週20時間以上・月額8.8万円以上・学生でない)を満たすパートです。

次のいずれかの同意が必要です。


✅同意対象者の過半数で組織する労働組合があるとき → その労働組合の同意

✅労働組合がないとき → 過半数代表者(同意対象者の過半数を代表する人。全従業員の過半数ではありません)の同意、または同意対象者の2分の1以上の同意


ここで注意が必要です。

令和8年10月に賃金要件が撤廃されると、同意対象者からも「月額8.8万円以上」が外れる見込みです。

そうなると、週20時間以上働く学生でないパート全員が同意対象者になります。

あとで述べるとおり申出は令和8年10月1日以降をお勧めしますので、同意を集める時点で誰が同意対象者になるかを、必ず年金事務所に確認してください。

母数を誤ると、同意の要件を満たさないことになります。


歯科医院に労働組合があることはまれですから、実際には代表者の同意か、2分の1以上の同意を集めることになります。

過半数代表者には、2つの要件があります。

労働基準法第41条第2号の管理監督者でないことと、代表者を選ぶと明らかにしたうえで投票・挙手・持ち回り決議などの方法で選出されたことです(令和4年3月18日保保発0318第2号)。

院長が指名した人では要件を満たしません。


申出は事業主から行います。

単位は、医療法人なら法人単位、個人開業なら適用事業所単位です。

資格を取得する日は、事務センターなどが申出を受理した日になります。


判断の前に、知っておくべき点が2つあります。


第一に、対象者を医院が選ぶことはできません。

3要件を満たすパートは全員が加入します。「この人だけ入れる」という運用はできません。


第二に、やめるのは簡単ではありません。

厚生年金保険の被保険者と70歳以上被用者の4分の3以上の同意を得て、脱退する旨を申し出る必要があります。

すでに加入したパートには不利益な変更にあたるため、要件が重く設定されています。

入る前に、保険料の負担を試算しておくことをお勧めします。

4. 令和8年10月1日から、何が変わるのか

令和7年法律第74号「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」が、令和7年6月20日に公布されました。

歯科医院に関係するのは次の3点です。


なお、この章に挙げる施行日は、いずれも同法に基づくもので、最終的には施行期日を定める政令によって確定します。

本記事では、執筆時点で厚生労働省と日本年金機構が案内している日付を記載しています。

手続きを進める前に、最新の情報をご確認ください。

保険料調整制度が始まります(令和8年10月1日施行)

新しく社会保険に入るパートの保険料負担を軽くする仕組みです。

従業員50人以下の事業所が対象ですから、ほとんどの歯科医院が該当します。


対象になる事業所は、次のいずれかです。


✅令和8年10月1日以降に任意特定適用事業所となった事業所

✅令和9年10月1日以降、企業規模要件の縮小により新たに加入対象となる事業所


対象になるパートは、次の3つをすべて満たす人です。


✅1週間の所定労働時間が20時間以上(常勤の4分の3未満)

✅月収13万円未満(標準報酬月額が12.6万円以下)

✅学生でない


負担割合は月収に応じて変わります

比率の左側が従業員、右側が事業主です。

標準報酬月額 1~2年目 3年目
8.8万円以下 25:75 37.5:62.5
9.8万円 30:70 40:60
10.4万円 36:64 43:57
11万円 41:59 45.5:54.5
11.8万円 45:55 47.5:52.5
12.6万円 48:52 49:51


軽減される期間は通算3年で、3年目は軽減の割合が半分になります。

日本年金機構の資料によれば、事業主が追加で負担した保険料は、一定期間が過ぎたあとに納める保険料から全額控除されます。

最終的に事業主が納める保険料は増えません。

パートが将来受け取る年金額にも影響はありません。


3年は「事業所が制度の利用を開始してから」数えます。

あとから加入したパートは、残りの期間だけ軽減を受けます。


なお、歯科医師国保に加入し、健康保険の適用除外承認を受けている医院について、この制度がどう適用されるかは、公表資料からは確認できませんでした。

該当する医院は、年金事務所と加入先の組合に事前にご確認ください。

手続きには落とし穴があります

ここが本記事で最もお伝えしたい点です。


 令和8年9月30日以前に任意特定適用事業所となった事業所は、保険料調整制度の対象外です。


いま急いで手続きを済ませると、パート本人の負担を軽くする仕組みを使えなくなります。

検討しているなら、申出が受理される日を令和8年10月1日以降にする必要があります。


手続きは2段階です。


 第1段階:任意特定適用事業所になる


1. 任意特定適用事業所申出書

2. 同意対象者の2分の1以上の同意を示す書類

3. 短時間労働者に該当する人の被保険者資格取得届


事務センターへの郵送、または管轄の年金事務所への郵送・窓口持参で提出します。

電子申請もできます。


 第2段階:保険料調整制度の利用を申し出る


「保険料調整開始申出書」を提出します。

事務センターへの郵送、または管轄の年金事務所への郵送・窓口持参です。

こちらは電子申請ができません。

申出の期限は、事業所が制度の対象となった日から2年以内です。

賃金要件と企業規模要件はどうなるのか

賃金要件(月額8.8万円以上)は撤廃される予定です。

厚生労働省は、令和8年10月に撤廃する予定であると案内しています(令和8年1月作成のリーフレット)。

全国すべての都道府県で最低賃金が時給1,016円を超えたため、週20時間働けば自動的に8.8万円以上になるという理由です。

条文上の施行日は「公布から3年以内の政令で定める日」とされています。


撤廃されると、任意特定適用事業所では、週20時間以上働く学生でないパートが、原則として賃金の額を問わず加入対象になります。

ただし例外があります。

最低賃金法の減額特例の許可を受けている人のうち、月額賃金が8.8万円未満の人は、原則として加入対象外です(本人の申出により任意で加入することはできます)。

判断の前提が変わるため、注意が必要です。


企業規模要件は、令和9年10月1日から令和17年10月1日までの間に段階的に撤廃されます。

対象となる企業規模 実施時期
50人超 2024年10月
35人超 2027年(令和9年)10月
20人超 2029年(令和11年)10月
10人超 2032年(令和14年)10月
10人以下 2035年(令和17年)10月


歯科医院の多くは、令和17年10月にようやく対象になります。

それまで待つのか、任意特定適用事業所を選ぶのかが、経営判断になります。

5. よくある誤解と、院長がとる手順

よくある誤解


誤解:パートだから社会保険は関係ない

実際:呼び名は関係ありません。自院が適用事業所なら、4分の3基準を満たす人は50人超かどうかを問わず被保険者です


誤解:うちは小さいから、いま加入義務のあるパートはいない

実際:4分の3基準に50人超の要件はありません。ただし個人開業で常時5人未満なら、そもそも適用事業所に当たりません


誤解:本人が「扶養に入りたい」と言えば加入させなくてよい

実際:要件を満たせば法律上当然に被保険者になります。本人の希望では変えられません


誤解:適用拡大は50人超の話だから、うちには無関係

実際:労使の合意で任意特定適用事業所になれば加入できます。令和8年10月からは保険料の支援も受けられます


誤解:令和11年10月の個人事業所の適用拡大で、うちも対象になる

実際:医療業はもともと法定17業種(⑭医療)です。新たに対象となるのは農業・宿泊業・飲食サービス業などで(しかも同時点で既に存在する事業所は当分の間対象外です)、歯科医院に変更はありません


誤解:早く手続きしたほうが得だ

実際:令和8年9月30日以前に任意特定適用事業所になると、保険料調整制度を使えません


誤解:いったん任意で加入しても、やめたくなればやめられる

実際:脱退には被保険者と70歳以上被用者の4分の3以上の同意が必要です


誤解:契約書の時間が短ければ、実態はどうあれ加入義務はない

実際:実際の労働時間と労働日数が直近2か月とも4分の3以上で今後も続く見込みなら、加入対象です。ただし4分の3に届かない場合は、任意特定適用事業所でない限り対象外です(令和4年3月18日保保発0318第2号)


誤解:学生アルバイトは全員が対象外だ

実際:4分の3基準を満たす学生は、昼間学生でも被保険者です。夜間学部・定時制課程・休学中の人は4要件の「学生」に含まれませんが、この場合は④の事業所要件も満たす必要があります


誤解:歯科医師国保に入っているから、法人化しても手続きはいらない

実際:適用除外承認が必要で、しかも事実発生から14日以内の申請です。厚生年金保険は適用除外にできません

院長がとる手順


まず、常勤職員(常勤の歯科衛生士がいればその人)の1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数を確認します。

就業規則か雇用契約書で確認してください。

これが比べる基準になります。


次に、パート全員の雇用契約書を並べます。

それぞれの4分の3を計算し、両方を満たす人を洗い出します。

ここで漏れが見つかったら、任意特定適用事業所の検討より先に、そちらの手当てが必要です。


同時に、タイムカードも並べてください。

契約書の数字だけでは足りません。

契約上は週4日・1日7時間なのに、実際は毎週30時間・月16日という状態が2か月続いていれば、契約を直す前にすでに4分の3基準を満たしており、加入義務が生じている可能性があります(令和4年3月18日保保発0318第2号)。

この場合は契約の見直しだけでは足りませんので、年金事務所に資格取得の要否を確認してください。

なお「実際は週25時間」のように4分の3に届かない場合は、任意特定適用事業所になっていない限り加入対象にはなりません。


そのうえで、残った人(週20時間以上4分の3未満)が何人いるかを数えます。

この人数が、任意特定適用事業所を検討する意味があるかどうかの目安になります。


個別の事情によって取扱いが変わりますので、判断に迷う場合は年金事務所か社会保険労務士にご相談ください。

7. まとめ

歯科医院の社会保険は、「パートかどうか」ではなく「働く時間と日数」で決まります。

まず確かめるべきは、常勤職員の4分の3以上働いているパートがいないか、という一点です。

該当する人がいれば、自院が適用事業所である限り、50人超かどうかにかかわらず、いますぐ加入が必要です。

判断の材料は雇用契約書とタイムカードの両方です。契約書だけを見て安心しないでください。


そのうえで、令和8年10月1日からの保険料調整制度は、歯科医院にとって使い道のある仕組みです。

従業員50人以下が対象で、パート本人の負担を抑えながら加入を進められます。

歯科衛生士の採用が難しくなるなかで、社会保険に入れることは条件面での差になり得ます。


ただし、令和8年9月30日以前に任意特定適用事業所になると、この制度は使えません。

手続きを急ぐことが、そのまま損失につながるという珍しい場面です。

検討されている場合は、日程を含めて設計してください。


なお、本記事は一般的な解説です。

自院がどの類型に当たるか、どのパートが対象になるかは、契約内容と勤務の実態によって変わります。

具体的な判定は、年金事務所または社会保険労務士にご確認ください。



社会保険労務士小笠原事務所は、愛知県春日井市を中心に活動しております。

■対応可能エリア

 愛知県(名古屋市、一宮市、瀬戸市、春日井市、犬山市、江南市、小牧市、稲沢市、尾張旭市、岩倉市、豊明市、日進市、清須市、北名古屋市、長久手市、東郷町、豊山町、大口町、扶桑町、津島市、愛西市、弥富市、あま市、大治町、蟹江町、飛島村、半田市、常滑市、東海市、大府市、知多市、阿久比町、東浦町、南知多町、美浜町、武豊町、岡崎市、碧南市、刈谷市、豊田市、安城市、西尾市、知立市、高浜市、みよし市、幸田町、豊橋市、豊川市、蒲郡市、新城市、田原市、設楽町、東栄町、豊根村)

 岐阜県(恵那市、大垣市、各務原市、笠松町、多治見市、土岐市、中津川市、羽島市、瑞浪市)


社会保険労務士小笠原事務所
ロゴ
労働時間管理や就業規則の見直しまで幅広い業務に対応し、社労士として中小企業と従業員の両者が安心して働ける環境を整えます。愛知で行政書士として許認可申請や外国人労働者の在留資格手続きもサポートしています。
社会保険労務士・行政書士 小笠原事務所

〒486-0914

愛知県春日井市若草通5-103-2

NEW

CATEGORY

ARCHIVE

TAG