保育園の「指導」はどこからパワハラか?子どもの安全を理由にした叱責の線引き#保育園#園長#パワハラ#ハラスメント対策#労働施策総合推進法#就業規則#社労士#労務管理
散歩中に子どもが車道へ出かけたとき、とっさに大きな声が出た。
あとになって若手の職員から「あの言い方はパワハラではないか」と言われた。
保育の現場では、こうした場面が日常的に起こります。
指導のつもりの言動がパワーハラスメントと評価されれば、園は措置義務を果たしているかを問われます。
職員の離職にもつながります。
この記事では、指導とパワハラを分ける線がどこにあるのかを整理します。
民間が運営する園を前提とした解説です。
目次
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1. 結論:ここだけ押さえる
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2. パワハラは3つの要素で決まる
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3つそろわなければ該当しない
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「範囲を超えた」かは何を見て判断するのか
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3. 保育園ではどこで線を越えるのか
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指導すること自体は、制度が求めている
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「重大な問題行動」とは、誰の行動を指すのか
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同じ内容でも、態様が変われば評価が変わる
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「優越的な関係」は役職だけで決まらない
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「職場」も「職員」も、思っているより広い
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4. 園として何を整えておくか
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相談窓口を「定めた」と認められるのはどこまでか
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就業規則に何を書くか
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令和8年10月1日に条文番号が変わり、指針も改正される
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5. まとめ
1. 結論:ここだけ押さえる
✅パワハラは3つの要素をすべて満たすものを指します。1つでも欠ければ該当しません(労働施策総合推進法第30条の2第1項)。
✅職員自身が、園の業務の性質に照らして重大な問題行動をとった場合に「一定程度強く注意」することは、国の指針で該当しない例に挙げられています。子どもが危険な行動をとったこと自体は、この例の対象ではありません。
✅「優越的な関係」は園長や主任だけの話ではありません。経験年数の長い職員から新人への言動も含まれます。
✅相談窓口の設置などの措置は、園の規模にかかわらず義務です。中小企業も令和4年4月1日から義務化されています。
✅令和8年10月1日から、根拠条文が第30条の2から第31条に移ります。法律の文言は同じですが、指針そのものは改正されます。
2. パワハラは3つの要素で決まる
3つそろわなければ該当しない
事業主(園長個人ではなく、雇用主となっている法人そのもの。
社会福祉法人・学校法人・株式会社などがこれにあたり、個人立の園なら経営者本人)は、職場のパワーハラスメントを防ぐために必要な措置を講じなければなりません。
相談に応じる体制の整備が、その中心に置かれています(労働施策総合推進法第30条の2第1項)。
その中身は、厚生労働大臣が定める指針(事業主が講ずべき措置の内容を具体化したもの)に書かれています。
令和2年厚生労働省告示第5号です。
指針は、職場のパワーハラスメントを次の3つの要素をすべて満たすものと定めています。
1. 優越的な関係を背景とした言動であること
2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
3. 労働者の就業環境が害されるものであること
そして指針は、こう付け加えています。
客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワーハラスメントに該当しない、と。
つまり、厳しいかどうかが分かれ目ではありません。
2つ目の「必要かつ相当な範囲を超えたか」が実際の争点になります。
「範囲を超えた」かは何を見て判断するのか
指針は、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動を、社会通念に照らして業務上の必要性が明らかにないもの、または態様が相当でないものとしています。
業務の目的を大きく逸脱した言動、手段として不適当な言動、回数や行為者の数など態様が許容範囲を超える言動が例に挙げられています。
判断にあたっては、言動の目的、経緯や状況、業種・業態、業務の内容や性質、態様・頻度・継続性、職員の属性や心身の状況、行為者との関係性などを総合的に考慮するとされています。
ここが実務では重要です。
指針は、個別の事案における職員の行動が問題となる場合には、**その内容・程度と、それに対する指導の態様等の相対的な関係性が重要な要素となる**ことにも留意が必要である、としています。
「何があったのか」と「どう叱ったのか」を、切り離さずに見るということです。
3つ目の要素は、身体的または精神的な苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。
基準は「平均的な労働者の感じ方」(同じ状況で同じ言動を受けたとき、社会一般の職員が看過できない支障を感じるかどうか)です。
特定の職員が傷ついたかどうかだけで決まるわけではありません。
ただし指針は、相談対応の場面では相談者の受け止めにも配慮するよう求めています。
該当性の判断基準と、相談を受けたときの姿勢は別のものです。
3. 保育園ではどこで線を越えるのか
この記事で紹介する指針の例は、いずれも限定列挙ではありません。
個別の事案の状況によって判断が変わることに留意してください。
指導すること自体は、制度が求めている
保育所における保育の内容は、内閣総理大臣が定める指針に従うこととされています(児童福祉施設の設備及び運営に関する基準第35条)。
これが保育所保育指針(平成29年厚生労働省告示第117号)です。
その第5章「職員の資質向上」は、日常的に職員同士が主体的に学び合う姿勢と環境が重要であり、職場内での研修の充実が図られなければならない、としています。
施設長には、体系的・計画的な研修機会の確保も求められています。
つまり保育園は、制度上、職員を育てることを求められている施設です。
日々の保育の中で先輩が後輩に伝える場面は、その要請に沿ったものです。
ここを萎縮させる必要はありません。
問題は、その手段が「相当な範囲」に収まっているかどうかです。
なお、幼稚園には幼稚園教育要領、幼保連携型認定こども園には幼保連携型認定こども園教育・保育要領が対応します。
いずれもパワーハラスメント防止措置とは別系統の規律です。
「重大な問題行動」とは、誰の行動を指すのか
指針は「精神的な攻撃」の類型について、該当しないと考えられる例を2つ挙げています。
1. 遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意しても改善されない労働者に対して、一定程度強く注意をすること
2. その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすること
ここは読み違えやすいところです。
問題行動をとったのは職員である、というのがこの例の前提です。
保育園に当てはめれば、安全確認の手順を守らない、危険な出来事を報告しない、といった職員自身の行動が想定されます。
園の業務の性質に照らして、これらは重大な問題行動になり得ます。
「子どもが危ないことをしたのだから、職員を強く叱ってよい」という話ではありません。
子どもの行動と、職員の問題行動は、切り離して考えてください。
同じ内容でも、態様が変われば評価が変わる
指針は「精神的な攻撃」に該当すると考えられる例として、次のようなものを挙げています。
✅人格を否定するような言動を行うこと
✅業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと
✅他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと
保育園で線を越えやすいのは、3つ目です。
保育室にはいつも他の職員がいて、子どもも保護者もいます。
その場で危険を止めるための一声と、あとから全員の前で繰り返す叱責は、法的な評価が変わり得ます。
実務としては、その場で止めることと、あとから理由を伝えることを分ける運用が現実的です。
事故を防ぐための制止はためらう必要がありません。
振り返りは、場所と人数を選んで行います。
「優越的な関係」は役職だけで決まらない
指針は「優越的な関係を背景とした」言動を、その言動を受ける職員が行為者に対して抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものとしています。
次のものが含まれるとされています。
✅職務上の地位が上位の者による言動
✅同僚または部下による言動で、その者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その協力を得なければ業務の円滑な遂行が困難であるもの
✅同僚または部下からの集団による行為で、抵抗または拒絶することが困難であるもの
保育園では2つ目が効いてきます。
役職がなくても、経験年数の長い職員は行事の段取りもクラス運営の勘所も握っています。
その職員の協力なしにはクラスが回りません。
ここは指針が想定している関係そのものです。
「園長も主任も何もしていないから、うちにパワハラはない」という見立ては成り立ちません。
「職場」も「職員」も、思っているより広い
指針は「職場」を、職員が業務を遂行する場所と定義しています。
通常就業している場所以外であっても、業務を遂行する場所であれば職場に含まれます。
散歩先の公園、園外保育の道中、運動会の会場。
いずれも職場です。
対象となる「労働者」には、正規職員だけでなくパートタイムで働く職員も含まれます。
派遣職員については、派遣元だけでなく受入先である園も、労働者派遣法第47条の4により自園の職員と同様に措置を講じる必要があります。
保育の分野では、認可保育所か認定こども園か幼稚園か、運営主体が社会福祉法人か学校法人か株式会社かで、適用法令が変わる論点が数多くあります。
しかしパワーハラスメントの防止措置は違います。
職員を雇っていれば、施設類型にも運営主体にもかかわらず、事業主として同じ義務を負います。
4. 園として何を整えておくか
相談窓口を「定めた」と認められるのはどこまでか
多くの園には、保護者からの苦情を受け付ける窓口があります。
施設類型ごとの運営基準に基づくものです(認可保育所などの児童福祉施設なら児童福祉施設の設備及び運営に関する基準第14条の3第1項、施設型給付を受ける施設なら特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業並びに特定子ども・子育て支援施設等の運営に関する基準第30条第1項)。
これは保護者に向けた窓口であって、職員のパワハラ相談窓口ではありません。
職員向けの相談窓口は、指針上、次のいずれかの方法で「あらかじめ定めている」と認められます。
✅相談に対応する担当者をあらかじめ定める
✅相談に対応するための制度を設ける
✅外部の機関に相談への対応を委託する
いずれの場合も、窓口を定めるだけでなく職員に周知することまでが必要です。
ただし、窓口を置けば終わりではありません。
指針が求める措置は、①方針の明確化と周知・啓発、②相談体制の整備、③事後の迅速かつ適切な対応、④プライバシー保護と不利益取扱い禁止の周知、の4つで一組です。
就業規則に何を書くか
指針は、パワーハラスメントの内容と、これを行ってはならない旨の方針を明確化し、園長・主任などの管理監督者を含む職員に周知・啓発することを求めています。
あわせて、行為者に厳正に対処する旨の方針と対処の内容を就業規則その他の服務規律を定めた文書に規定し、これも同じく職員に周知・啓発することを求めています。
労働基準法では、表彰及び制裁の定めをする場合には、その種類と程度に関する事項を就業規則に記載しなければなりません(労働基準法第89条第9号)。
懲戒(規律違反に対する制裁)の根拠がなければ、実際に処分することは困難です。
なお、措置義務に違反しても罰則はありません。
厚生労働大臣の助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合は公表され得るという仕組みです(労働施策総合推進法第33条。令和8年10月1日以降は第42条)。
これとは別に、園が民事上の損害賠償責任を負う場面もあります。
令和8年10月1日に条文番号が変わり、指針も改正される
令和7年法律第63号による改正で、令和8年10月1日から条文の番号が動きます。
パワーハラスメントの措置義務は第30条の2から第31条へ、国と事業主・労働者の責務は第30条の3から第32条へ移ります。
法律の条文の文言は現行と同じです。
ただし、措置義務の中身を定める指針のほうは改正され、同じ令和8年10月1日から新しい版が適用されます。
たとえば「個の侵害」の該当例には、性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報について、もともと挙げられていた本人の了解を得ずに暴露することに加え、本人が開示することを禁止したり、本人に開示を強要したりすることが加わりました。
「条番号が動くだけ」と考えず、改正後の指針本文を確認してください。
なお、同じ改正でカスタマーハラスメントへの措置義務が改正後の第33条として新設されます(現行の第33条は助言・指導・勧告・公表の規定で、改正後は第42条に移ります。同じ「第33条」でも中身が違う点に注意してください)。
保護者の言動も、要求の内容に照らして手段や態様が社会通念上許容される範囲を超え、職員の就業環境が害される場合には、この規定の対象になり得ます。
ただし、保護者対応がすべてこれにあたるわけではありません。
正当な苦情に対応する義務は別に残ります。
職員間のパワハラとも、条文と措置の内容が別です。
5. まとめ
指導とパワハラを分ける線は、厳しさの度合いではありません。
業務上の必要性があるか、そして手段として相当かどうかです。
職員自身の問題行動に対する注意であれば、業務上の必要性は認められやすいと考えられます。
問題になるのは、その後の態様のほうです。
保育園には、職員を育てる責務が制度として置かれています。
同時に、事業主として職員の就業環境を守る義務もあります。
労働契約法第5条は、使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をするものとする、と定めています(安全配慮義務)。
これは民事上の義務で、心身の健康もその対象と解されています。
まず着手すべきは、4つの措置のうち①方針の明確化と②相談窓口の設置です。
園長が名指しされたときに機能する相談先があるかどうかも、あわせて確認してください。
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