保育園で「休憩が取れない」は違法か?賃金支払義務と、園長が確認すべき3つのこと#保育#労務#休憩
「園児から目を離せず、気づけば休憩の45分も子どものそばにいた」・・保育の現場では珍しくない光景です。
しかし、この状態が続いていると休憩を与えていないこと自体が労働基準法違反になるうえ、その時間の賃金を後から請求されるリスクを抱えることになります。
実際に、配置基準を満たす最低限の人数で運営していた園で、休憩とされていた時間が労働時間と認定された裁判例もあります。
この記事では、保育園に特有の事情をふまえて、法律上の要件と園で確認すべき点を整理します。
なお本記事は、私立(民間)の保育所・幼稚園・認定こども園を前提としています。公立園の職員は地方公務員であり、地方公務員法や給特法により労働基準法の適用関係が異なりますので、別途ご確認ください。
目次
-
1. 結論:ここだけ押さえる
-
2. 労働基準法が定める休憩の3つのルール
-
長さと、与えるタイミング
-
一斉に与えるのが原則(第34条第2項)
-
自由に利用させる(第34条第3項)
-
-
3. 保育園ではどこが問題になるか
-
施設類型によって「一斉付与」の扱いが変わる
-
配置基準は「休憩交代要員」まで織り込んでいない
-
「休憩中も子どもを見ている」時間の扱い
-
ノンコンタクトタイムは休憩ではない
-
-
4. 実務での運用ポイント
-
よくある誤解と実際
-
6. まとめ
1. 結論:ここだけ押さえる
✅休憩は「労働時間の途中に」「決められた長さで」「自由に利用させて」の3つを満たして初めて休憩です。子どものそばを離れられない時間は、休憩ではなく労働時間として賃金の対象になります。
✅保育所は労働基準法別表第一第13号(保健衛生の事業)に区分されると解されており、その場合、休憩を交代で取らせるのに労使協定は要りません。一方、幼稚園は第12号(教育の事業)と整理されるのが一般的で、この適用除外には含まれていません。
✅配置基準は「保育に従事する保育士の数」を定めたものです。休憩を回すには、その必要数に加えて交代要員を置くことが実務上の前提になります。
2. 労働基準法が定める休憩の3つのルール
長さと、与えるタイミング
労働基準法第34条第1項は、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を、労働時間の途中に与えなければならないと定めています。
見落とされやすいのが途中にという部分です。
早番の職員を早く帰す代わりに休憩を与えない、勤務の最後にまとめて休憩を置くという運用は、この要件を満たしません。
一斉に与えるのが原則(第34条第2項)
休憩は事業場の全員に一斉に与えるのが原則です。
ただし、労働者の過半数で組織する労働組合、それがない場合は労働者の過半数を代表する者との書面による協定があれば、交代で与えることができます。
ここで注意が必要なのは協定の中身です。
労働基準法施行規則第15条は、この協定について(1)一斉に休憩を与えない労働者の範囲と(2)その労働者に対する休憩の与え方を定めなければならないとしています。
「休憩は交代で与える」とだけ書いた一枚紙では、この要件を欠くため適用除外の効果が生じず、結果として一斉付与義務違反となるおそれがあります。
なお、この労使協定は36協定と違って労働基準監督署への届出は不要です。締結した協定書は事業場で保管してください。
自由に利用させる(第34条第3項)
使用者は休憩時間を自由に利用させなければなりません。
「園内で待機していること」「子どもの様子が見える場所にいること」を指示していれば、自由利用が保障されているとは言えません。
自由利用の原則が適用されない職員は、労働基準法施行規則第33条に限定列挙されています。
✅警察官・消防吏員・常勤の消防団員・准救急隊員および児童自立支援施設に勤務する職員で児童と起居をともにする者
✅乳児院・児童養護施設・障害児入所施設に勤務する職員で児童と起居をともにする者(この類型は、あらかじめ様式第13号の5により所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合に限られます)
✅居宅訪問型保育事業に使用される者のうち家庭的保育者として保育を行う者(同一の居宅で1人の児童に複数の家庭的保育者が同時に保育を行う場合を除きます)
保育所の保育士は含まれていません。
これとは別に、労働基準法第41条に該当する労働者には、休憩に関する第34条の規定そのものが適用されません。
同条第2号のいわゆる管理監督者がこれにあたります。
ただし管理監督者に該当するかどうかは役職名ではなく、職務内容・権限・勤務態様の裁量・待遇といった実態で判断されます。
「園長・主任だから管理監督者」という整理は裁判で否定されることが少なくなく、その場合は休憩付与義務も割増賃金の支払義務も生じます。
なお、管理監督者に該当する場合でも、深夜割増賃金の支払義務(第37条第4項)と、労働安全衛生法に基づく労働時間の状況の把握義務は免れません。
3. 保育園ではどこが問題になるか
施設類型によって「一斉付与」の扱いが変わる
労働基準法施行規則第31条は、別表第一の第4号、第8号、第9号、第10号、第11号、第13号および第14号に掲げる事業と官公署の事業について、第34条第2項(一斉付与)を適用しないと定めています。
保育所は児童福祉施設すなわち社会福祉施設として、別表第一第13号「病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業」に区分されると解されています。
労働局の説明でも、保健衛生業には「病院、診療所、社会福祉施設、浴場業、その他の保健衛生業」が挙げられています。
この場合、一斉付与の原則がそもそも適用されないため、交代で休憩を取らせるのに労使協定は要りません。
問題は幼稚園です。幼稚園は学校教育法第1条の学校であり、労働基準法別表第一では第12号「教育、研究又は調査の事業」に当たると整理されるのが一般的です。
そして第12号は、施行規則第31条が挙げる適用除外に含まれていません。
この整理による限り、幼稚園で交代制の休憩を行うには労使協定の締結が必要になります。
認定こども園については、幼保連携型は学校であると同時に児童福祉施設であり、類型によって性格が異なります。
事業場がどの号に当たるかは最終的に所轄労働基準監督署が実態で判断しますので、確証がない場合は確認してください。
なお、適用除外にあたる事業場が協定を締結しておくこと自体に不利益はありません。
配置基準は「休憩交代要員」まで織り込んでいない
以下は認可保育所の基準です。
幼保連携型認定こども園は認定こども園法に基づく別の基準(平成26年内閣府・文部科学省・厚生労働省令第1号)、幼稚園は幼稚園設置基準(1学級30人以下を原則とし、各学級に専任の教諭等を1人以上)によりますので、自園の類型に応じて確認してください。
児童福祉施設の設備及び運営に関する基準第33条第2項は、保育士の数を
✅乳児おおむね3人につき1人以上
✅満1歳以上満3歳に満たない幼児おおむね6人につき1人以上
✅満3歳以上満4歳に満たない幼児おおむね15人につき1人以上
✅満4歳以上の幼児おおむね25人につき1人以上
と定め、あわせて保育所1につき2人を下ることはできないとしています(同項ただし書。この下限には同基準附則第94条による当分の間の特例があり、適用の有無は自治体の条例・通知で確認してください)。
なお、3歳児の15対1と4歳以上児の25対1は令和6年4月1日施行の改正後の基準です。
保育士及び保育従事者の配置の状況に鑑み保育の提供に支障を及ぼすおそれがあるときは、3歳児については令和10年3月31日までの間、4歳以上児については当分の間、改正後の基準は適用されず、従前の基準(それぞれ20対1、30対1)によることとされています(令和6年内閣府令第18号 附則第2項・第3項)。
また、この府令の基準は「従うべき基準」であり、実際に各園に適用されるのは、これに従って都道府県(指定都市・中核市・児童相談所設置市にあってはその市)が条例で定めた基準です(児童福祉法第45条第1項・第2項第1号、第59条の4第1項)。
自治体独自の上乗せや、経過措置の取扱いの違いもあるため、必要数は園の所在地を所管する都道府県または市の条例で確認してください。
そのうえで押さえたいのが、この基準は保育に従事する保育士の数を定めたものだという点です。
休憩に入った保育士は、その間は保育に従事していません。
したがって、基準を満たしたまま休憩を回すには、基準上の必要数に加えて交代要員を置くのが実務上の前提になります。
配置基準ギリギリの人員で組んだシフトは、その時点で「誰かが休憩を取れば基準を割る」構造を抱えています。
現場の工夫が足りないのではなく、シフトの前提が足りていないというのが実態です。
「休憩中も子どもを見ている」時間の扱い
保育園で担任業務にあたっていた職員が未払割増賃金等を請求した事案で、京都地方裁判所は令和4年5月11日、シフト上は休憩とされていた時間について労働から解放されていなかったと認定し、その時間を労働時間として扱いました(社会福祉法人セヴァ福祉会事件・労働判例1268号)。
理由として、配置基準を満たす最低限の人数で運営されていたため一人担任の保育士は休憩時間であっても保育現場を離れることができず、連絡帳の記載など必要な業務を行っていたこと、食事も業務の一部である食事指導として園児と一緒にとることになっていたことなどが挙げられています。
なお本判決は変形労働時間制の有効性や管理監督者性なども争われた事案であり、裁判所ウェブサイトの裁判例検索には掲載されていません。
この判断は当該事案の事実関係を前提としたものですが、「休憩時間としてシフト表に書いてあるか」ではなく「実際に労働から解放されていたか」で判断されるという枠組みは、多くの園に共通します。
ノンコンタクトタイムは休憩ではない
保育の現場では、子どもと離れて指導計画の作成や連絡帳の記入を行う時間を「ノンコンタクトタイム」と呼ぶことがあります。
この時間は事務作業という業務を行う時間であり、労働時間です。休憩とは別に確保する必要があります。
両者を同じものとして扱っている園は、休憩を与えていないことになります。
4. 実務での運用ポイント
まず着手すべきは、休憩を取れる前提でシフトが組まれているかの確認です。
配置基準上の必要数しか出勤していない時間帯があれば、その時間帯に休憩を置くことは事実上できません。
そのうえで、休憩を取る場所を保育室外に用意する、休憩中の職員には呼び出しをしないと決めて周知するといった運用面の手当てが要ります。
書面の整備も欠かせません。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、休憩時間は就業規則の絶対的必要記載事項です(労働基準法第89条第1号)。
交代で与える場合は、その旨と時間帯の考え方を就業規則に定めてください。
10人未満で作成義務がない園でも、休憩の扱いを書面で明確にしておくことは、後日の争いを避けるうえで有効です。
記録も重要です。出勤簿やタイムカードなど労働関係に関する重要書類には保存義務があります(同法第109条。保存期間は5年、附則第143条第1項により当分の間3年)。
休憩の開始・終了を実際に記録しておけば、後から実態を説明できます。
逆に、シフト表に一律「12:00〜13:00休憩」と書いてあるだけで実態の記録がない場合、争いになったときに園側が説明しにくくなります。
なお、休憩を与えなかった場合、労働基準法第119条第1号により6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象となります。
あわせて、休憩とされていた時間が労働時間と評価されれば、その分の賃金の支払義務が生じ、法定労働時間を超えていれば割増賃金の対象にもなります。
最後に一点補足します。
別表第一の号別区分は、休憩の一斉付与だけでなく、週の法定労働時間の特例にも関係します。
保健衛生業のうち常時使用する労働者が10人未満の事業場は週44時間が上限となる特例の対象ですが(労働基準法第40条、同法施行規則第25条の2)、10人以上の園には適用されません。パート・アルバイトも人数に含めて判断します。
第12号(教育の事業)に区分される幼稚園はこの特例の対象外です。
また、対象事業場であっても1年単位の変形労働時間制などを採用する場合は週40時間となります(同条第4項)。
人数要件や類型を確かめずにこの特例を使うと違法になりますので、混同しないようご注意ください。
よくある誤解と実際
誤解:休憩が取れなかった分は、その日の勤務を早く上がってもらえば清算できる
実際:休憩は労働時間の途中に与える必要があり、早上がりで代えることはできません
誤解:保育所は交代で休憩を取らせるのに労使協定が必要だ
実際:別表第一第13号に区分される保育所では、一斉付与の原則が適用されないため協定は不要と解されています
誤解:幼稚園も保育所と同じ扱いでよい
実際:幼稚園は第12号(教育の事業)と整理されるのが一般的で、適用除外に含まれていません
誤解:「休憩は交代で与える」と労使協定に書けば足りる
実際:対象となる労働者の範囲と休憩の与え方を定める必要があります(施行規則第15条)
誤解:子どもの近くにいるだけで何もしていない時間は休憩だ
実際:労働から解放されていなければ休憩とは扱われません
誤解:ノンコンタクトタイムを設けたので休憩は足りている
実際:ノンコンタクトタイムは事務作業を行う労働時間であり、休憩とは別です
誤解:園長・主任は管理監督者だから休憩の規定は関係ない
実際:管理監督者に当たるかは実態で判断され、役職名だけでは決まりません
誤解:休憩を取るかどうかは職員が決めることだ
実際:休憩を与える義務は使用者にあり、職員が取らなかったことで免れるものではありません
6. まとめ
保育園で休憩が取れない問題は、職員の意識や現場の工夫だけでは解決しません。
配置基準が保育に従事する保育士の数を定めている以上、休憩を回すための要員は経営判断として上乗せするしかないからです。
まずは、休憩を取れる時間帯が現在のシフトに存在しているかを確認してください。
そのうえで、自園の施設類型に応じて労使協定の要否を確かめ、休憩の実態を記録に残す運用に切り替えることが、後日の未払賃金の請求に備える最も確実な手立てになります。
NEW
- query_builder 2026/09/06人事労務労務管理 愛知社労士人事制度ハラスメントパワハラ保育園園長保育士
診療所で院長の家族を雇うとき|同居の親族は労働者か、保険はどうなるか #クリニック経営 #開業医 #診療所 #家族従業員 #社会保険 #労災保険 #社労士 #労務管理
query_builder 2026/09/06人事労務労務管理 愛知社労士歯科医院歯科クリニック開業歯科医院長クリニック経営歯科医院が辞めた衛生士から残業代を請求されたら?未払いが生まれる3つの入口 #歯科医院 #開業歯科医 #歯科衛生士 #残業代 #未払い残業 #労働基準法 #社労士 #労務管理
query_builder 2026/09/06人事労務労務管理コンサルティング 愛知社労士就業規則歯科医院歯科クリニック開業歯科医歯科衛生士院長クリニック経営労働基準法診療所の就業規則が現場と合わない理由|医師・看護師・医療事務の分け方 #クリニック経営 #院長 #就業規則 #労働基準法 #看護師 #医療事務 #社労士 #労務管理
query_builder 2026/09/03人事労務労務管理コンサルティング 愛知社労士就業規則院長クリニック経営看護師医療事務労働基準法保育園は配置基準を理由に年休を断れるか?時季変更権の限界と年5日義務の回し方 #保育園 #園長 #年次有給休暇 #配置基準 #時季変更権 #労働基準法 #社労士 #労務管理
query_builder 2026/08/29人事労務労務管理コンサルティング 愛知社労士就業規則保育園幼稚園園長保育士